ストランド通りに面しているチャリングクロス駅の正面 |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」の終盤、シャーロック・ホームズは、ジョン・ワトスンとボヘミア国王(King of Bohemia)と一緒に、セントジョンズウッド(St. John's Wood)のサーペンタインアヴェニュー(Serpentine Avenue)にあるアイリーン・アドラー(Irene Adler)の自宅ブライオニーロッジ(Briony Lodge)を再訪する。そうすると、戸口で彼らは年配の女性から「私の女主人(=アイリーン・アドラー)は、あなた様がここにお越しになるだろうと私におっしゃっておりました。彼女は、今朝、旦那様と一緒に、チャリングクロス駅5時15分発の列車でヨーロッパ大陸に向けて御出発されました。(My mistress told me that you were likely to call. She left this morning with her husband by the five-fifteen train from Charing Cross for the Continent.)」と告げられるのである。
チャリングクロス駅は、ロンドン中心部にある鉄道ターミナルの一つである。ロンドン内の他の駅(=終着駅)とは異なり、チャリングクロス駅は、ウォータールー駅(Waterloo Station)やロンドンブリッジ駅(London Bridge Station)の2つのターミナル駅とも接続されている。駅の名前は、すぐ近くのトラファルガースクエア(Trafalgar Square)にあるチャリングクロス交差点に由来している。なお、古英語で「チャリング(Charing)」は、「川が曲がった部分」を意味するとのこと。
駅の正面はストランド通り(Strand)に、また、駅の裏面はテムズ河(River Thames)に架かるハンガーフォード橋(Hungerford Bridge)に面している。当駅をターミナルとしているサウスイースタンメインライン(South Eastern Main Line)の列車は、ハンガーフォード橋経由、テムズ河南岸に渡っていくのである。
ハンガーフォード橋に面しているチャリングクロス駅の裏面 |
チャリングクロス駅は、サー・ジョン・ホークショー(Sir John Hawkshaw:1811年ー1891年)による設計に基づき、サウスイースタン鉄道(South Eastern Railway)がハンガーフォードマーケット(Hungerford Market)の地に建設して、1864年1月11日に開業。
駅の開業から約1年4ヶ月後の1865年5月15日に、エドワード・ミドルトン・バリー(Edward Middleton Barry:1830年ー1880年)が設計したチャリングクロスホテル(Charing Cross Hotel)が開業。現在もみられるフレンチ・ルネッサンス様式の華麗な駅正面が完成したのである。コナン・ドイル作「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervillesー事件発生年月:1888年9月)」において、ヘンリー・バスカヴィル卿(Sir Henry Baskervilles)は、このチャリングクロスホテルではなく、駅横のノーサンバーランドストリート(Northumberland Street)にあるノーサンバーランドホテル(Northumberland Hotelー現在のシャーロック・ホームズパブ)に滞在している。
チャリングクロスホテルの開業に合わせて、清教徒革命(Puritan Revolution:1642年ー1649年)時の1647年に破壊された「ホワイトホール宮殿の十字架(Whitehall Cross)」をモデルにして、「エレアノールの十字架(Eleanor Crossーこれも、エドワード・ミドルトン・バリーが設計)」のレプリカが駅正面に設置された。
英国では、ロンドンからの距離については、「ホワイトホール宮殿の十字架」があった場所を起点にして、公式に測定されることになっており、現在のそれは、チャリングクロス交差点内にあるチャールズ1世の像であり、チャリングクロス駅正面の設置された「エレアノールの十字架」に変わった訳ではない。
チャリングクロス交差点内に立つチャールズ1世の像 |
1900年には、駅プラットフォーム上の区域は、テリー・ファレル(Terry Farrell:1938年ー)が設計したポストモダン様式のオフィスと店舗の複合施設エンバンクメントプレイス(Embankment Place)によって覆われ、現在に至っている。この複合施設には、現在、監査法人大手のプライスウォーターハウスクーパーズ(PricewaterhouseCoopers)が入居している。
テリー・ファレルが設計したエンバンクメントプレイス |
チャリングクロス駅関係で追加すると、コナン・ドイル作「高名な依頼人(The Illustrious Client)」において、ワトスンは、グランドホテルとチャリングクロス駅の中間で、夕刊紙の売り子が持つ新聞見出しを見て、しばし呆然と立ち尽くす。そこには、黄色の地に黒色の文字で、次のように書かれていた。
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