2018年3月17日土曜日

ロンドン リッチモンド(Richmond)-その1


サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。


元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。


ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。


しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。
ホームズの依頼に応じて、ワトスンは、ランベス地区(Lambeth)の水辺近くにあるピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane→2017年10月28日付ブログで紹介済)に住む鳥の剥製屋シャーマン(Sherman)から、犬のトビー(Toby)を借り出す。そして、ホームズとワトスンの二人は、バーソロミュー・ショルトの殺害現場に残っていたクレオソートの臭いを手掛かりにして、トビーと一緒に、現場からロンドン市内を通り、犯人の逃走経路を追跡して行く。


ホームズとワトスンの二人が、犬のトビーと一緒に、ストリーサム地区(Streatham→2017年12月2日付ブログで紹介済)、ブリクストン地区(Brixton→2017年12月3日付ブログで紹介済)、キャンバーウェル地区(Camberwell→2017年12月9日付ブログで紹介済)、オヴァールクリケット場(Oval)を抜けて、ケニントンレーン(Kennington Lane→2017年12月16日付ブログで紹介済)へと達した。そして、彼らは更にボンドストリート(Bond Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)、マイルズストリート(Miles Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)やナイツプレイス(Knight’s Place→2017年12月23日付ブログで紹介済)を通って、ナインエルムズ地区(Nine Elms→2017年12月30日付ブログと2018年1月6日付ブログで紹介済)までやって来たが、ブロデリック&ネルソンの材木置き場という間違った場所に辿り着いてしまった。どうやら、犬のトビーは、どこかの地点から違うクレオソートの臭いを辿ってしまったようだ。


二人はトビーをクレオソートの臭いの跡が二つの方向に分かれていたナイツプレイスへと戻し、犯人達の跡を再度辿らせた。そして、彼らはベルモントプレイス(Belmon Place→2018年1月13日付ブログで紹介済)とプリンスズストリート(Prince’s Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)を抜けて、ブロードストリート(Broad Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)の終点で、テムズ河岸に出るが、そこは船着き場で、どうやら犯人達はここで船に乗って、警察の追跡をまこうとしたようだ。


バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達が乗った船の隠れ場所については、ウィギンズ(Wiggins)を初めとするベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)に捜索を指示した後、ホームズは、ワトスンと一緒に、ベーカーストリート221Bへと戻り、その結果を待つことにした。


朝食の際、彼(ホームズ)は、髭が伸びたままで、やつれたように見えた。彼の頬には、熱っぽい色の斑点が浮き出ていた。
「かなり疲れているみたいだな。」と、私は言った。「夜中に歩き回っている音が聞こえたよ。」
「とても寝ていられないさ。」と、彼は答えた。「このいまいましい事件には、疲れ果てたよ。全てのことがうまく進んでいるのに、こんな小さな障害に邪魔されるのは、うんざりさ。僕には、犯人達も、彼らが乗った船も、何もかも判っている。それにも関わらず、その船の隠れ場所についての連絡が全く来ない。僕は別の部隊も出動させて、打つべき手は全て打ってあるんだ。テムズ河の両岸とも、隅から隅まで捜索中にもかかわらず、何も連絡がない上に、スミス夫人も夫から連絡を受けていない。遅かれ早かれ、犯人達は船を処分したという結論に達せざるを得ない。しかし、その結論に至るには、問題があるんだ。」
「あるいは、スミス夫人が嘘の手掛かりで私達を騙したということはないかい?」
「いや、その可能性はないと思う。僕が調査したところでは、彼女が僕達に話した通りの船は存在しているんだ。」
「それじゃ、問題の船はテムズ河の上流の方へ向かったということは考えられないかい?」
「僕もその可能性を考えたさ。捜索隊はリッチモンドの辺りまでテムズ河を遡って、船を捜す予定だ。もし今日何の連絡もなければ、明日僕自ら、船ではなく、犯人達を捜すつもりだ。しかし、きっと必ず、何か連絡がある筈だ。」


At breakfast-time he looked worn and haggard, with a little fleck of feverish colour upon either cheek.
‘You are knocking yourself up, old man,’ I remarked. ‘I heard you marching about in the night.’
‘No, I could not sleep,’ he answered. ‘This infernal problem is consuming me. It is too much to be baulked by so petty an obstacle, when all else had been overcome. I know the men, the launch, everything; and yet I can get no news. I have set other agencies at work, and used every means at my disposal. The whole river has been searched on either side, but there is no news, nor has Mrs Smith heard of her husband. I shall come to the conclusion soon that they have scuttled the craft. But there are objections to that.’
‘Or that Mrs Smith has put us on a wrong scent.’
‘No, I think that may be dismissed. I had enquiries made and there is a launch of that description.’
‘Could it have gone up the river?’
‘I have considered that possibility too, and there is a  search-party who will work up as far as Richmond. If no news comes today, I shall start off myself tomorrow, and go for the men rather than the boat. But surely, surely, we shall hear something.’


テムズ河(River Thames)の下流域に加えて、ホームズがベーカーストリート不正規隊に捜索させようとしているテムズ河の上流にあるリッチモンド(Richmond)は、ロンドン特別区の一つで、ロンドン南西部郊外のロンドン・リッチモンド・アポン・テムズ区(London Borough of Richmond upon Thames)内にあり、テムズ河の中流域に位置して、テムズ河の東岸に広がる町である。

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