2025年9月14日日曜日

コナン・ドイル作「花婿失踪事件」<小説版>(A Case of Identity by Conan Doyle )- その3

1891年9月号に掲載された挿絵(その3) -
結婚式を挙げる金曜日の朝、キングスクロスの近くにあるセントサヴィオール教会に、
メアリー・サザーランドと彼女の母親は先に到着して、
後から着いた馬車の中からホズマー・エンジェルが降りて来るを待った。
ところが、彼女達がいつまで待っても、ホズマー・エンジェルは、一向に姿を現さない。
そこで、ホズマー・エンジェルが乗って来た馬車の御者が降りて、馬車の中を見てみると、
ホズマー・エンジェルの姿は忽然と消えていたのである。
画面手前左側から、ホズマー・エンジェルが乗って来た馬車の御者、
そして、メアリー・サザーランド


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作シャーロック・ホームズシリーズの短編第3作目に該る「花婿失踪事件(A Case of Identity)」の場合、ジョン・H・ワトスンが、数週間ぶりに、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を訪れたところから、その物語が始まる。

ホームズとワトスンの2人が会話を交わしている最中、事件の依頼人であるメアリー・サザーランド(Mary Sutherland)が、給仕の少年に案内されて、部屋へと入って来た。

「結婚式の場から行方不明になったホズマー・エンジェル(Hosmer Angel)を探してほしい。」と依頼する彼女の話は、更に続く。



ロンバードストリート(Lombard Street
→ 2015年1月31日付ブログで紹介済)から
フェンチャーチストリートを望む。
<筆者撮影>


彼女の母親の再婚相手であるジェイムズ・ウィンディバンク(James Windibank - メアリー・サザーランドの母親よりも15歳近く年下)は、フェンチャーチストリート(Fenchurch Street → 2014年10月17日付ブログで紹介済)にある大きな赤ワイン輸入業者ウェストハウス&マーバンク(Westhouse & Marbank)で外交員をしている、とのことだった。


義理の父となったジェイムズ・ウィンディバンクは、メアリー・サザーランドに対して、男友達との交際を禁じていたが、彼がフランスへ出張している間に、彼女は、ガス管取付業界の舞踏会(gasfitters' ball)へ出かけ、そこでホズマー・エンジェルと知り合い、間もなく婚約した。



レドンホールストリート沿いに建つロイズ保険組合の本社ビル「ロイズビル」-
ロイズ(Lloyd’s)」とは、正式には、
「ロイズ・オブ・ロンドン(Lloyd’s of London
→ 2023年12月8日付ブログで紹介済)」と言う。
<筆者撮影>


ホズマー・エンジェルは、レドンホールストリート(Leadenhall Street → 2014年10月5日付ブログで紹介済)にある事務所で出納係(cashier)として働いていて、寝起きもその事務所でしている(He slept on the premises.)と言う。

ホームズが驚いたことに、メアリー・サザーランドは、ホズマー・エンジェルが働いている事務所の住所を、レドンホールストリート以外、全く知らなかったのである。ホームズの疑問に対して、彼女は、「ホズマー・エンジェルは、事務所宛に手紙を送られると、女性から手紙をもらったことで、他の社員達からからかわれるので、自分から彼への手紙は、全て、レドンホールストリート郵便局の局留めで送っていた。(To the Leadenhall Street Post Office, to be left till called for.)」と言う説明をした。


不思議なことは、他にもあった。

ホズマー・エンジェルがメアリー・サザーランド宛に寄越す手紙は、全てタイプライターで打たれているのにもかかわらず、彼女から彼宛の手紙は、手書きを望んだ。これに対して、彼は「手紙がタイプライターで打たれていると、2人の間に機械が挟まったような感じがする。(when they were typewritten he always felt that the machine had come between us.)」と言う説明をした。

更に、ホズマー・エンジェルがメアリー・サザーランドと一緒に外へ出かけるのに、昼間よりも夜を選んだ。(He would rather walk with me in the evening than in the daylight.)それに関しても、彼は「人眼を引くのが、大嫌いだ。()」と言う言い訳をした。(he said that he hated to be conspicuous.)彼女は、「彼は非常に恥ずかしがり屋なのだ。(He was a very shy man, Mr Holmes.)」と、好意的に解釈していた。

若い頃、扁桃腺を患って、炎症を起こしたため、喉が弱くなり、躊躇うような、囁くような話し方をすること、また、強い光から弱い目を守るため、色付きの眼鏡をしていること等、ホズマー・エンジェルの行動には、不自然な点が多々あると言えた。


義理の父ジェイムズ・ウィンディバンクが再度フランスへ出張した際、ホズマー・エンジェルがメアリー・サザーランドの家を訪れて、「ジェイムズ・ウィンディバンクさんがフランスへ出かけているうちに、結婚式を挙げるべきだ。」と説得した。(Mr Hosmer Angel came to the house again and proposed that we should marry before father came back.)

彼女は母親にも相談したが、母親も、ホズマー・エンジェルを非常に気に入っており、「結婚式のことは、後で報告すればよい。」と答えた。


残念ながら、セントサヴィオール教会は実在しておらず、
セントパンクラス オールド教会(St. Pancras Old Church)が、その候補地と思われる。
<筆者撮影>


その結果、ホズマー・エンジェルとメアリー・サザーランドは、金曜日の朝に結婚式を挙げることが決まった。

メアリー・サザーランドとホズマー・エンジェルは、キングスクロスの近くにあるセントサヴィオール教会(St. Saviour's (Church) near King's Cross 2014年10月11日付ブログで紹介済)で結婚式を挙げ、その後、セントパンクラスホテル(St. Pancras Hotel)へ移動して、そこで結婚披露朝食会を開催する運びとなったのである。


セントパンクラスホテルの正面入口
<筆者撮影>


ユーストンロード(Euston Road)から見上げたセントパンクラスホテルの建物
<筆者撮影>


結婚式を挙げる金曜日の朝、ホズマー・エンジェルは、メアリー・サザーランドの家に、二人乗り馬車(hansom)で迎えに来た。

ホズマー・エンジェル、メアリー・サザーランドと彼女の母親の3人では、二人乗り馬車には乗れないため、ホズマー・エンジェルは、メアリー・サザーランドと彼女の母親を、自分が乗って来た二人乗り馬車に乗せ、自分は通りに居た四輪辻馬車(four-wheeler)に乗り込んだ。

セントサヴィオール教会には、メアリー・サザーランドと彼女の母親が先に到着。彼女と彼女の母親は、後から着いた四輪辻馬車からホズマー・エンジェルが出て来るのを待つが、彼は一向に姿を現さない。そこで、四輪辻馬車の御者が降りて馬車の中を見てみると、ホズマー・エンジェルの姿は忽然と消えていた。

更に驚くことに、それ以降、彼の消息がつかめなくなったのである。


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