2025年6月4日水曜日

ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」(The Women of Baker Street by Michelle Birkby)- その4

英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版の内扉 -
作者であるミシェル・バークビーのサイン付き


腹部の閉塞症のために倒れて、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)において緊急手術を受けたハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))の元を、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))が、お見舞いに訪れる。何故か、帽子は歪んでいる上に、ジャケットのボタンもかけ違えているし、服と靴もちぐはぐだった。

「何か心配事でも?」と尋ねるハドスン夫人に対して、メアリー・ワトスンは、「(ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の)給仕のビリー(Billy)経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から聞いた話が気になっている。」と答えた。


ウィギンズによると、ロンドンの街角から、少年達が忽然と姿を消している、とのこと。また、それは、もう数年前から起きていることで、誰も不審には思っていないらしい。不思議なことに、突然に姿を消すのは、路上で生活している浮浪児だけではなく、様々な場所で発生していることだった。

最近の話で言うと、いつも交差点で働いていた掃除係の少年(crossing sweeper)が見当たらなくなったことに加えて。その数日後には、ちゃんと家があり、母親と一緒に暮らしていた別の少年も、姿を消した、とのこと。

彼ら2人は未だに帰ってこないし、行方も全く判らない。ウィギンズが方々の知り合いにあたって捜したものの、警察にも、救貧院にも居らず、彼らの足取りは全くつかめなかった。まるで、地面に飲み込まれたような姿の消し方なのだ。


ウィギンズが行き当たった噂は、もう一つあった。それは、「幽霊少年団(The Pale Boys)」のことだった。

(1)夜間だけ、街角に姿を見せる。

(2)街灯の明かりには決して近付かない。

(3)往来の激しい大通りには、足を踏み入れない。

(4)全員、青白い顔をして、闇に溶け込みそうな黒づくめの服装をしている。

(5)薄暗い道端や人気の無い路地を彷徨く。

(6)何年経っても、歳をとらないし、飲んだり食べたりもしない。

(7)彼らの姿を見た者は、死んでしまう。


まるで怪談話(ghost story)だと思ったハドスン夫人ではあったが、「手始めに、一番新しい失踪事件である交差点掃除係の少年の件について、更に聞き込みを進めてはどうか?」と助言すると、メアリー・ワトスンは、嬉しそうに笑って、帰って行った。


セントバーソロミュー病院の場合、昼間は、多くの看護婦達や見習いの看護婦達が、せわしなく動きまわっていて、誰が誰なのか、全く判らないが、夜間(午後6時以降)になると、患者を除くと、シスターのルース・ベイ(Ruth Bey)と看護婦2名(ノラ・テイラー(Nora Taylor)+1名)だけの体制となる。


英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版内に付されている
セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図


遠くでセントポール大聖堂(St. Paul’s Cathedral → 2018年8月18日 / 8月25日 / 9月1日付ブログで紹介済)の時計の鐘が午前3時を知らせた時、サラ・マローン(Sarah Malone - ハドスン夫人の左側に居る患者 / かなり深刻な容体で、死期が迫っている / 始終ぶつぶつと何かを呟いている)が、うわごとめいた叫び声をあげて、「告解」を求めた。

夜中にカトリックの司祭を呼ぶことは無理だったため、ミランダ・ローガン(Miranda Logan - ハドスン夫人の右側に居る患者 / 過労と貧血を理由に入院中 / ほとんど誰とも口をきかない / 派手なガウン姿で、ベッドに起き上がり、新聞をずーっと読んでいる)が、手伝いを申し出る。

ミランダ・ローガンが手をとる中、サラ・マローンが、小さな声で「告解」を始めた。そして、セントポール大聖堂の時計が午前3時15分を告げる頃、サラ・マローンは力尽きたようにぐったりと横たわった。


セントバーソロミュー病院に入院して3日目の夜、ハドスン夫人は、入院初日の晩に続く2つ目の死に遭遇したのである。


それから数日後の夜、ハドスン夫人は、消灯後、眠りに落ちたが、午前3時頃、悪夢に襲われて、目が覚めた。目が覚めたものの、何故か、身体が全く動かず、また、助けを呼ぼうにも声も出なかった。

すると、入院初日の晩と全く同じことが起きる。

病室の隅の黒いかたまりから、人の形をしたものがすうっと出て来たのだ。そして、エマ・フォーダイス(Emma Fordyce - ミランダ・ローガンの正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き)が眠るベッドの側に立った。

その時、エマ・フォーダイスが目を覚まして、はっと息をのんだ後、悲鳴を上げようとしたが、その人影は、いきなり側にあった枕を掴むと、彼女の顔に押し付けた。エマ・フォーダイスは激しく暴れた、次第に抵抗が弱くなり、最後は、ぐったりとして動かなくなった。


ハドスン夫人は、入院初日に続き、2つ目の殺人現場を目撃したことになる。


エマ・フォーダイスを殺害した人影は、暫くの間、彼女の様子を窺っていたが、急に後ろを振り向くと、ハドスン夫人の方を見つめた。そして、その人影は、足音もなく、ハドスン夫人のベッドの方へと近づいて来たのである。ハドスン夫人は、思わず、目をつぶった。

その時、ノラ・テイラー看護婦が特別病棟へと戻って来る軽快な足音が聞こえる。そして、特別病棟内のベッドを順番に移動して、患者の様子を確認し始めるが、エマ・フォーダイスのベッドで足を止めると、短い悲鳴を上げた。

そして、ハドスン夫人が目を開けると、エマ・フォーダイスを殺害した人影は、既に消え去っていたのである。


実は、エマ・フォーダイスは、若い頃、王侯貴族をお相手する有名な高級娼婦だったことが判る。彼女の口が堅く、当時の事情が外に漏れたことは、今まで一度もなかった。当時の醜聞がエマ・フォーダイスの口から公になることを恐れた誰かが、彼女の殺害を指示したのであろうか?


一方で、ウィギンズやビリー達の手助けを受けつつ、「幽霊少年団」の調査を進めるメアリー・ワトスン。

ハドスン夫人が遭遇した2つの殺人事件とメアリー・ワトスンが調べている「幽霊少年団」の話は、やがて一つに繋がるのであった。


0 件のコメント:

コメントを投稿