2025年6月14日土曜日

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の日本語新翻訳版の表紙について(And Then There Were None by Agatha Christie)

日本の株式会社 早川書房から出ている
クリスティー文庫80「そして誰もいなくなった」の復刻版表紙
(装幀: 真鍋 博)


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」は、日本の出版社である株式会社 早川書房( Hayakawa Publishing, Inc.)から、クリスティー文庫80「そして誰もいなくなった」として、日本語新翻訳版が出ている。

なお、本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第26作目に該り、彼女の作品の中でも、代表作に挙げられている。


その際、日本語新翻訳版の表紙として、1976年4月刊行のハヤカワ・ミステリ文庫「そして誰もいなくなった」の挿画が復刻されている。


復刻された挿画の装幀を担当しているのは、日本のイラストレーター / アニメーター / エッセイストであった真鍋 博(Hiroshi Manabe:1932年ー2000年)。


元々、アガサ・クリスティーが1939年に「そして誰もいなくなった」を発表した時点での英語の原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒んぼ)」で、作品中、これは非常に重要なファクターを占める童謡を暗示している。

なお、この童謡は、マザーグース(Mother Goose)の一つとして分類されるが、大元の「Ten Little Nigger Boys」は、英国の作詞家フランク・グリーン(Frank Green)が1869年に翻案した作品である。


ただし、「Nigger」という単語がアフリカ系アメリカ人に対する差別用語だったため、米国版のタイトルは「Ten Little Indians(10人の子供のインディアン)」に改題された。

それに伴い、


*島の名前: 黒人島(Nigger Island)→ インディアン島(Indian Island)

*童謡名: 10人の小さな黒んぼ(Ten Little Niggers)→ 10人の子供のインディアン(Ten Little Indians)

*人形名: 黒人人形 → インディアン人形


へと変更された。


真鍋 博が日本語旧翻訳版の装幀を担当した際(1976年4月)、米国版のタイトルをベースにして、表紙には「インディアン」が描かれている。


近年、「インディアン」も差別用語と考えられているため、英米で発行されている「そして誰もいなくなった」のタイトルには、「And Then There Were None」が使用されている。「And Then There Were None」は、童謡の歌詞の最後の一文から採られている。

その結果、


*島の名前: インディアン島(Indian Island)→ 兵隊島(Soldier Island)

*童謡名:10人の子供のインディアン → 10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)

*人形名: インディアン人形 → 兵隊人形


へという変遷を辿っているのである。


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