2022年11月2日水曜日

島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険」(’New 15 Fried Rats The Adventures of John H. Watson’ by Soji Shimada)- その2

日本の新潮社から2015年に出版された
島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトスンの冒険」
(ハードカバー版)の本体表紙
(装幀:新潮社装幀室)

日本の推理小説家 / 小説家である島田荘司氏(1948年ー)が2015年に発表した長編推理小説「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険(New 15 Fried Rats The Adventures of John H. Watson)」の場合、「プロローグ」において、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Square → 2016年1月1日付ブログで紹介済)において、燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)が営む質屋(pawnbroker)に、質屋の裏手にある City and Suburban Bank の頭取であるメリーウェザー氏(Mr Merryweather)が訪れるところから、物語の幕が開く。メリーウェザー氏は、ジェイベス・ウィルスンに対して、セポイの反乱を制圧したグレイト・マスカット将軍がインドから英国へと持ち帰り、現在、銀行の地下金庫室内に預けられているインド金貨3万枚の強奪計画を持ち掛けるのであった。


<第一章 インドからの帰還、そして出逢い>


シャーロック・ホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」通り、元軍医局のジョン・H・ワトスン医学博士の回想録で始まる。

1878年に、ワトスンは、ロンドン大学(University of London → 2016年8月6日付ブログで紹介済)で医学博士号を取得した後、ネトリー軍病院(Netley Hospital → 2016年8月13日付ブログで紹介済)で軍医になるための必要な研修を受けて、第二次アフガン戦争(Second Anglo-Afgan Wars:1878年ー1880年)に軍医補として従軍することになる。

アフガニスタンのマイワンド(Maiwand)の戦いにおいて、ワトスンは銃で肩を撃たれて、重傷を負う。献身的で勇気ある看護兵であるマレー(Murray)達に助けられ、ワトスンは英国の防衛ラインまで無事運ばれる。


コナン・ドイルの原作とは異なるが、ペシャワールの兵站病院において、ワトスンは、古参兵のサディアス・ショルトー(Thaddeus Sholto)と出会う。サディアス・ショルトーがワトスンに内密に語ったところでは、彼は、アグラの砦において、部下のシーク兵士二人と一緒に、商人に化けた北部州の王の召使いであるアクメットと名乗るインド人を殺害して、莫大な金貨銀貨や膨大な宝石類を奪い、砦内に隠していた。この金貨が、セポイの反乱を制圧したグレイト・マスカット将軍が率いる軍によって発見され、インドから英国へと運ばれて、現在、City and Suburban Bank の地下金庫室内に預けられているという流れである。

サディアス・ショルトーは、コナン・ドイルの原作「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)」に登場する人物であるが、厳密に言うと、原作では、宝石類(金貨銀貨は含まれていない)を奪ったのは、ジョナサン・スモール(Jonathan Small)である。


また、島田荘司氏の作品では、金貨を発見して、インドから英国へと持ち帰ったのは、グレイト・マスカット将軍となっているが、原作では、サディアス・ショルトーの父親であるジョン・ショルトー少佐(Major John Sholto)と、後にワトスン夫人となるメアリー・モースタン(Mary Morstan)の父親であるアーサー・モースタン大尉(Captain Arthur Morstan)の二人である。


その後、ワトスンは、第二次アフガン戦争の戦地を離れ、軍隊輸送船オロンテス号で英国のポーツマス(Portsmouth → 2016年9月17日付ブログで紹介済)へと戻る。

健康回復のため、9ヶ月間の休暇を与えられたワトスンは、ロンドンへとやって来て、ストランド通り(Strand → 2015年3月29日付ブログで紹介済)のホテルに滞在していた。だが、英国政府から支給される1日あたり11シリング6ペンスの恩給だけで、怠惰なホテル滞在を続けて行くのは、ワトスンにとって、大きな負担になりつつあった。

そんな不安を感じつつあったワトスンは、ある日、クライテリオンバー(Criterion Bar → 2014年6月14日付ブログで紹介済)において、誰かに肩をたたかれた。それは、ワトスンがセントバーソロミュー病院(St.

Bartholomew’s Hospital → 2014年6月8日付ブログで紹介済)に勤務していた際、彼の外科手術助手(dresser)だったスタンフォード(Stamford)青年だった。

このスタンフォード青年との再会を通し、セントバーソロミュー病院において、ワトスンは、シャーロック・ホームズと知り合い、ベイカーストリート221B221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)での共同生活に繋がっていく。そして、ワトスンは、ホームズが「緋色の研究」事件と「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」事件の2つを鮮やかに解決するのを見届けるのであった。


コナン・ドイルの原作の場合、ワトスンは、英国内に親類縁者が全くいないという設定になっているが、島田荘司氏の作品の場合、ワトスンには、亡くなった兄のヘンリーの妻だったヴァイオレット・ブラックウェルが居て、兄の死後、実家のダートムーア(Dartmoor)へと戻っているという設定になっている。また、ワトスンは、ヴァイオレットが兄のフィアンセだった頃から、彼女に対して、思慕を抱いているという設定も追加されており、後々の物語に大きく関わってくる。


また、コナン・ドイルの原作の場合、「緋色の研究」事件、「ボヘミアの醜聞」事件や「赤毛組合(The Red-Headed League → 2022年9月25日 / 10月9日 / 10月11日 / 10月16日付ブログで紹介済)」事件の発生年月については、必ずしも、発表順通りではないが、島田荘司氏の作品の場合、コナン・ドイルによる発表順に、各事件が発生している設定を採っている。厳密に言うと、発表順では、「緋色の研究」事件と「ボヘミアの醜聞」事件の間に、「四つの署名」事件が入るが、ワトスンの亡くなった兄のヘンリーの妻だったヴァイオレット・ブラックウェルが、後々の物語に大きく関わってくる関係上、「四つの署名」事件に登場するメアリー・モースタンを出せないので、「四つの署名」事件に関しては、全く言及されていない。


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